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繰延税金資産を巡るりそな銀行の実質国有化について

 りそな銀行は2003年度3月決算発表より、BIS規制による国内銀行の目標自己資本比率4%を下回る2.07%に低下したことを明らかにした。また、持株会社のりそなHDも自己資本金比率3.78%に低下した。政府は預金保険法第102条第1項に規定する「信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれ」を根拠に、公的資金増強1兆9,600億円の導入を決定した。「経営の健全化のための計画」と称された再建案は、人件費削減、物件費削減、保有株式売却、内部統制構築等が策定された。経営体制も維新され、内部からの経営陣に加え、JR東日本出身の細谷英二会長をはじめとして外部企業から招聘した経営陣による新経営体制が確立された。その後2015年6月には、政府から借りた公的資金は全て完済した。

 公的資金導入の最大の引き金は、新日本監査法人税効果会計による繰延税金資産5年分を3年分しか認めなかったからである。1年前の2002年3月決算時の繰延税金資産は7,092億円計上していたが、2003年度3月決算時は2,738億円減額し、計上額は4,354億円になった。その結果、自己資本比率が4%を下回り、金融危機対応会議を経て政府からの公的資金導入が決定した。

 繰延税金資産とは、将来支払う税金に軽減見込みがあれば、前払いで軽減分の税金を資産計上できる企業会計法である。しかし会計上、繰延税金資産が資産として価値を持つためには、計上分だけ税金を支払える収益能力が前提である。つまり、将来の収益計画が黒字であることが大前提で、赤字では疑似資産としての価値は無くなることになる。

 今まで監査法人は慣例的に、銀行の繰延税金資産は5年程度認めていた。その大半は、バブル崩壊で焦げついた不良債権に対する貸倒引当金税効果会計を適用した繰延税金資産であった。しかし、りそな銀行繰延税金資産を抜きにした税務会計上では、過去3年間赤字であり、将来の課税利益を捻出する収益力に朝日監査法人は疑念を抱いていた。また、朝日監査法人は海外提携していたアメリカ大手監査法人アーサー・アンダーセンエンロン粉飾事件により、株主から賠償責任で訴えられ多額な損害金を請求され、顧客からの信用を失い解散した経緯もあり、リスクヘッジとして監査の厳格化が当時の風潮としてあった。日本公認会計士協会は2003年2月、銀行に対する厳格監査を後押しした会長通牒を発行している。他にも、陰で竹中平蔵による金融再生プランで実績を作りたいがために、金融庁等に圧力をかけた等が当時噂されていたが、結果的にりそな銀行は5年分の繰延税金資産を朝日監査法人に全額否定された。

 りそな銀行はこの結果に反発し、朝日監査法人は監査から外れ、共同監査をしていた新日本監査法人が残った。その後、りそな銀行としては新日本監査法人のお墨付きをもらい5年分の繰延税金資産を計上しようとしたが、新日本監査法人は態度を豹変し、3年分の繰延税金資産しか認められず、自己資本比率は4%を下回った。

 

■感想

 結果だけ見れば、竹中平蔵の金融再生プランは血税導入により再建し、2015年には政府への借金も完済した。りそな銀行はその後も増収増益の一途である。しかし、当時の繰延税金資産を何年計上するかを巡り、朝日監査法人公認会計士が自殺している。再生プラン自体は評価するが、根回しを含めた強引なやり方はいかがなものか。 

 

 ■参考文献

りそなの会計士はなぜ死んだのか

りそなの会計士はなぜ死んだのか

 

www.nomura.co.jpwww.ginkouin.com

www.resona-gr.co.jp